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「うそをつかないでくれ!」
(2006.4.15)
『医療
の良心を守る市民の会』 副代表
新葛飾病院 院長 清水 陽一
1.
私の病院では、私が院長になってから「うそをつかない医療」を実践しています。
新
入医局員には、けして「患者さん、ご家族にうそをついてはいけない」と書かれている冊子を渡し、診療録にうそが書いていないのだから、診療録はいつで
もお見せするよう指導しています。
30
年以上医業に携わっているといかに医療の中では「うそ」をつくことが当たり前になっているかを思い知ります。まるで政治の世界と同じです。それもたち
が悪
いことに患者のために「うそ」をついているという傲慢な医者もいます。確かにときには真実を語ることが辛いこともあります。しかし「うそ」は結局患者
さん を傷つけることになります。
2.
25年前より患者側の弁護士に依頼され、鑑定意見書を書くようになりました。原告(患者側)、弁護士とも素人、裁判官も素人、被告(病院)は専門家の
た
め、輸血ミスのような明白な事例はよいのですが、専門性が問われるような事例では被告の陳述、病院側の意見書の中には堂々とうそが語られていることあ
るこ とに、驚きあきれ、怒りがこみあげてきます。
裁判官も鑑定意見書に依存する傾向があり、弁護士の書かれた内容や話すことを信用
していないような気もします。何かといえば協力医に意見書を書いてもらいなさいというようです。従って一審、二審で反論するために5通もの意見書を書いたことが2度もあります。
本来病院や医者は企業以上に「隠すな、ごまかすな、逃げるな」の3原則を守ることが大切です。にもかかわらず、生命を預かる病院や医者が、この3原
則を踏みにじっている姿に悲しくなってしまいます。このようななかで裁判所に公平な判断をもとめるのは私だけではないでしょう。
しかしこの間私たちを不安に陥れるような判決が続いてだされました。
3.ひとつは先日の杏林大学の医療事故に対する刑事事件の判決です。判決で診療に
過失があり、カルテの改ざんがあると指摘しているにもかかわらず、簡単にいえば診療はでたらめであったと述べているにもかかわらず、無罪ということで
した。
現在の法律では過失があっても、カルテを改ざんしても刑法上罪がないということで
す。ドイツではカルテの改ざんは刑法上の罪に当たるため、ありえないとのことでした。
さ
らに日本では病院側の意見書にも考えられないような「うそ、ごまかし」があります。ドイツでは医師職業裁判所では鑑定意見書も俎上にかけられ、問題が
あれ
ばペナルティーがあるそうです。被告医者は過失もカルテの改ざんもないと居直っています。さらに病院は判決が誤っていると主張しています。どうして素
直に 判決の指摘を受け入れないのでしょうか。医師職業裁判所があればこの医者は免許剥奪、病院は業務停止でしょう。
日本医大の事件では、自分の病院で働く医療従事者が患者さんに過失を謝ることを名誉毀損としました。彼は患者さんご遺族に自分たちが過失をおかした
と泣
いて謝罪したということです。これを取り上げたのは新聞社です。にもかかわらず彼のみが大学の名誉を傷つけたということで告訴され、一審、二審とも敗
訴し
ました。この判決には大いなる疑問があります。一つは手術中の過失の認定です。もう一つは謝罪が名誉毀損にあたるかということです。謝罪というのは病
院の
許可を得ないとできないのでしょうか。病院長の私にはまったく理解できません。私は自分の病院で「うそ」をつくな、間違いを犯したら謝罪しなさい、私
も一
緒に謝ると常日頃話します。むしろ隠したら私が告発しますよと言います。病院が不利(?)になると認定したら、告訴するという暗黒を許してはなりませ
ん。
4.どうして本当のことを話すことが、罪になるのでしょうか。どうしてこれが裁判
になるでしょうか、私には理解できません。いやな世の中です。こんな時代ですから、みなで真実を語る人を守りましょう。
今日はみなで語り、患者と医療従事者の溝をどうしたら埋めることができるか考
え、行動する日としましょう。」